育児休暇中は、会社にもよりますが基本給料は支払われません。
代わりに、国から受け取れる給付金などがあり、出産や育児にかかるお金をカバーできるようになっています。
しかし、給付金などは自分で申請をしなければもらうことは出来ず、申請を忘れると過去にもらえた分を受け取れないといったこともあり得ます。
中には子どもが生まれて2週間ほどで申請しなければいけないものなどもあるため、早めに準備をしておかないと出産の慌ただしさで忘れてしまう可能性もあります。
そこで、子どもが生まれてから慌てることがないよう、育児休暇中にもらえるお金やその申請方法などをここで事前に確認しておきましょう。
育児休業(育休)とは、「育児・介護休業法」で定められており、1歳に満たない子どもを養育する労働者が、子どもが満1歳になるまでの間の希望する期間に育児のために休業出来る制度です。
育児休業を取得できるのは、以下の全ての条件に当てはまる方になります。
これらの条件を満たせば、契約社員やパートなどの有期雇用労働者も育児休業を取得することが可能です。
育児休業中の給料の支払いは各会社の規定などによって決まりますが、ほとんどの場合は無給となり給料の支払いはありません。
「育児休業」と似た言葉で「育児休暇」があり、よく混同されがちなのですが、この2つの言葉は厳密には違う意味になります。
「育児休業」は法律で定義されているのに対し、「育児休暇」は企業が就業規則などで独自に設定・運用しているもののことを指します。
そのため、育児休業の条件に当てはまらなかった方が救済措置のような形で育児休暇を利用する、育児休業と育児休暇を併用して休みとれるようになっているなど、企業によって内容も取得条件も大きく異なります。
「育休」と略して使用される場合は、主に育児休業の意味で使われます。
本記事では、育児休業も含めた育児のためにとる休暇という意味で「育児休暇」という言葉を使用していきます。
育児休暇は基本、子どもが満1歳になるまでの間の希望する期間に取れます。
しかし、条件によっては以下のように最長2年まで延長することも出来ます。
延長できる期間 | 条件 |
---|---|
子供が1歳2ヶ月になるまで | 父親と母親がどちらも育児休業を利用する場合(「パパ・ママ育休プラス」制度) |
子供が1歳6ヶ月になるまで | 子供が1歳になっても認可保育園の入園が決まらないなど、やむをえない事情があると認められた場合。別途、延長手続きと書類の提出が必要 |
子供が2歳になるまで | 子供が1歳6ヶ月になっても認可保育園の入園が決まらないなど、やむをえない事情があると認められた場合。別途、延長手続きと書類の提出が必要 |
「パパ・ママ育休制度」は、父親の育児参加への重要性が高まっていることを受け、2010年から開始した制度です。
父親と母親の取れる育児休暇の期間はそれぞれ最長1年というのは変わりませんが、育児休暇をとる期間をずらしたり、一部重複させることで子どもが1歳2ヶ月になるまでの期間内であれば自由に休暇を取れるようにした制度です。
この他にも、子どもの出産8ヶ月以内に男性が育児休暇を取った場合、期間を開けて2回目の育児休暇を再取得できる「パパ休暇」と言う制度もあります。
パパ・ママ育休プラスで育児休暇を延長する場合は、育児休暇取得時に手続きをすれば問題ありません。
しかし、その他やむをえない事情で育児休暇を1歳6ヶ月、もしくは2歳まで延長する時は別途手続きが必要なので注意してください。
また、育児休暇の開始時期は男性と女性でそれぞれ異なります。
女性は、出産の翌日から8週間までは「産後休業」という別の休業制度が適応されるため、育児休暇の開始は「産後休暇が終わった翌日から」となります。
一方で男性は、「子どもの出産当日から」育児休暇を開始することが可能です。
このように約1年間とは言え、その期間内は基本的に給料の支払いがなくなってしまうため、生活に困ることが無いよう育児休暇中は様々な手当や給付金が利用できるようになっています。
次からはいよいよ、給付金や申請条件などを詳しく説明していきます。
「育児休業給付金」は、子どもが出来た後も仕事を続ける意思がある方が育児に専念できるよう、雇用保険から給付金を支給する支援制度です。
給付金の受給条件は以下の通りです。
上記の様に勤務先の雇用保険に加入していることが給付条件となるため、専業主婦や個人事業主の方はこの給付金を受け取ることが出来ません。
そのため、父親が会社勤務(雇用保険加入)で母親がフリーランスなどの個人事業を営んでいる場合、父親が育児休暇を取得した場合のみ給付金を受け取ることが可能です。
また、育児休業給付金は職場復帰を前提とした給付金のため、すでに退職が決定している方も受け取ることは出来ません。
ただし、復職予定だったが給付金受給中に何らかの事情で退職をすることが決まった場合、もらった分は返還の必要はなく、退職日が属する月の前月分までは給付金が支給されることになります。
では、育児休業給付金では実際どれぐらいの金額がもらえるのでしょうか?
給付金額は、育児休暇の期間によって以下の2パターンの計算式で求めることが出来ます。
期間 | 受給金額 | 支給上限額(2019年8月変更) | 支給下限額(2019年8月変更) |
---|---|---|---|
育児休暇開始~180日目 | 休業開始時賃金月額×67% | 304,314円 | 50,250円 |
181日目~ | 休業開始時賃金月額×50% | 227,100円 | 37,500円 |
休業開始時賃金月額は、原則として育児休業開始前6ヶ月の総支払額(保険料などが差し引かれる前の金額、ボーナスなどは除く)を日割りで計算した平均月収のことです。
具体的にどれぐらいもらえるか気になる方は、必要項目を埋めるだけで給付金額が計算できるシミュレーションツールなどもインターネット上にあるため、実際に計算してみてください。
育児休業給付金には支給上限額と下限額があり、毎年8月に決定されます。
給付金は上限金額を超えては支給されませんが、逆に計算した結果給付金が下限額を下回るようであれば下限額まで引き上げられて支払われます。
また、育児休業給付金は育児休暇中に給料が支払われていたり、引継ぎなどで一時的に勤務をして給料をもらったりした際も条件次第ではもらえるようになっています。
育児休業中に受け取った給料 | もらえる金額 |
---|---|
賃金月額の13%以下 | 原則通り支給 |
賃金月額の13%(181日目以降は30%)~80%未満 | 「(賃金月額×80%)-受け取った給料」で計算した差額 |
賃金月額の80%以上 | 支給されない |
このようにもらっている給料によっては差額分をもらえますので、給料が支払われている人も計算をしてみて、上記に該当するようでしたら申請をしておきましょう。
ただし、賃金月額の80%以上が支払われていなくても「育児休暇中に10日以上、かつ80時間を超えて就業した」場合、育児休暇は終わったものとみなされ給付金は支給されないので注意をしてください。
育児休業給付金の申請手続きは、各事業所の所在地を管轄するハローワークで行います。
申請者が希望すればハローワークで直接申請手続きをすることも出来ますが、事業主が提出すべき書類などもあるため、会社の担当窓口を通しての手続きをする場合がほとんどです。
申請は初回に手続きをした後も2ヶ月に1度手続きをする必要があり、初回の申請期限は育児休暇開始日から4ヶ月を経過する日の属する月の末日までとなっています。
必要な書類は以下のようになります。
申請者が記入・準備をする必要があるのは3、4の書類となり、他の書類は事業者に準備してもらう必要があります。
3の書類は個人番号欄にマイナンバーの記載をする必要があるため、あらかじめ個人番号カードや通知書などで確認をしておきましょう。
初回の振り込みは育児休業を開始してから約2ヶ月後から始まりますが、会社を経由して書類提出を行うため、申請手続きに1ヶ月ほど時間がかかることもあります。
そのため、大体支給開始までに2~3ヶ月、出産休暇もとっている場合は出産から4~5ヶ月と考えておきましょう。
特に出産後はいろいろと立て込むことも多く、期限に余裕があるからと後回しにするとさらに支給が遅れてしまうこともあるため、出産前からちょっとずつ書類の準備をしておくことをオススメします。
初回の申請以降は育児休暇が終了するまで、2ヶ月ごとに以下の申請書類を出して手続きをしていくことになります。
申請者が準備しなくてはいけないのは育児休業給付金支給申請書のみですが、初回の申請とは記載内容が異なるので注意してください。
また、事情があり育児休暇を延長する時も最長2年まで受給できますが、その場合は別途延長手続きが必要となります。
書類の書き方が分からない時は、厚生労働省のホームページに申請書類の記載例があるため確認してみてください。
育児休業給付金はうっかり申請期間を過ぎてしまっても、申請期限から2年の時効まで手続き自体は行えます。
しかし、申請を後回しにしてしまうと給付金をもらうのも遅くなってしまい、必要書類が揃わないなどのトラブルにつながる可能性も高くなるため期限は出来るだけ守ってください。
育児休業給付金は、前述した受給条件を満たしていれば契約社員やパート・アルバイトなどの有期雇用労働者も受け取ることが出来ます。
しかし、有期雇用労働者の方が申請する場合は加えて以下2つの条件も満たしている必要があります。
要するに、会社に1年以上勤めており、育児休暇明けも継続して雇用されることが有期雇用労働者の支給条件となっています。
これらを満たせば有期雇用労働者の方も育児休業給付金を受け取れるため、育児休暇を考えている方は、早めに会社の担当窓口に相談しておくと良いでしょう。
一方、公務員は「雇用保険」適用を除外されているため、育児休業給付金は支払われません。
代わりに加入している共済組合より「育児休業手当金」が支払われることになります。
育児休業手当金は、内容やもらえる金額や申請期限などは育児休業給付金と同じで、やはり職場の担当窓口を通して申請手続きを行うことになります。
申請者が記入する必要のある書類は「育児休業手当金請求書」となり、記入例などは所属先が加入している共済組合のホームページなどで確認できるので参考にしてください。
給付期間も基本1年間が期限となり、やむをえない事情があって育児休暇を延長する場合のみ最長2年まで支払われます。
もうひとつ、子どもを養育する際にもらえる手当てに「児童手当」があります。
児童手当は、日本国内に住む0歳以上~15歳になった年度末まで児童が支給対象となる手当てで、該当児童を養育する保護者であれば専業主婦や自営業などの方ももらうことが出来ます。
児童手当は手続きをしなければもらうことが出来ず、また申請期限も出産後すぐのため注意が必要です。
では、まず児童手当でもらえる金額から確認していきましょう
児童手当でもらえる金額は子供の年齢などで以下のように決まっています。
支給対象年齢 | 支給額 |
---|---|
0~3歳未満 | 15,000円 |
3歳~小学校終了前 | 10,000円(第3子以降は15,000円) |
中学生 | 10,000円 |
上記の様に大体は年齢に合わせて一律の金額を受けとれますが、3番目の子どもから3歳~小学校を卒業するまでの支給金額が少し上がります。
支給は毎年2月・6月・10月の年3回に分けて行われ、支給月の前月までの4ヶ月分がまとめて指定口座に振り込まれます。
児童手当は原則、子どもと同居している家族の中で収入の一番高い者(生活中心者)が受け取ることになっています。
児童手当には平成24年6月から所得上限が設けられており、児童手当を受け取る方の所得が下記の金額を超えた場合は全期間を通して支給額は一律5,000円となります(2020年6月現在)。
扶養親族の数 | 所得制限限度額 | 収入額の目安 |
---|---|---|
0人 | 622万円 | 833.3万円 |
1人 | 660万円 | 875.6万円 |
2人 | 698万円 | 917.8万円 |
3人 | 736万円 | 960万円 |
4人 | 774万円 | 1002.1万円 |
5人 | 812万円 | 1042.1万円 |
この扶養親族とは、受け取る人の扶養に子供や配偶者が何人入っているのかということです。
例えば、父親も母親も働いており互いにどちらの扶養にも入っていない家庭に子どもが生まれた時、児童手当を受け取る人が父親だったとします。
その場合、子どもが父親の扶養に入っていれば所得制限限度額は「扶養人数1人の660万円」が適用され、こどもが母親の扶養に入っているのであれば所得制限限度額は「扶養人数0人の622万円」が適用されます。
もし所得制限の詳細が分からなければ、現住所の市区町村の役所に聞いてみてください。
児童手当の申請は、現住所の市区町村の役所に申請書類を提出して手続きを行います。
通常は役所の窓口で手続きをしますが、里帰り出産などで現住所以外の場所で出産をする際は郵送や電子申請が出来るケースもあるため、あらかじめお住いの地域の申請方法を確認しておいてください。
申請時に必要な書類は以下の通りです。
児童手当は原則過去にさかのぼっての申請が出来ないため、この期限を過ぎてしまうと申請した翌月分からしか支給がされません。
うっかり申請を忘れないように、生まれた日から14日以内に同じく役所に提出しなければいけない「出生届」と一緒に手続きをしてしまうのがベストです。
その場合、児童手当は出生届が認可されてからしか手続きが出来ないため、先に出生届の手続きから済ませるようにしましょう。
児童手当の初回申請を済ませた後は、毎年5月の終わり~6月頭にかけて「現況届」という書類が郵送で送られてきます。
これは、6月分以降も児童手当を引き続き受ける要件を満たしているか確認するためのものなので、提出を忘れてしまうと児童手当の振り込みが止まってしまいます。
そのため現況届も、毎年6月末までには忘れず役所に提出するようにしてください。
公務員も児童手当をもらうことは出来ますが、提出先が役所ではなく勤務先の担当窓口に提出する必要があります。
そのため、以下の場合にはその翌日~15日以内に現住所の市区町村と勤務先に届け出と申請を行う必要があります。
この手続きも遅れてしまうと、原則遅れた分の手当を受けられなくなってしまうので注意が必要です。
提出する窓口が異なるだけで、提出する書類や手順は通常の児童手当とあまり変わりませんが、心配な方はあらかじめ勤務先の担当窓口に相談をしておくと良いでしょう。
実は、育児休業中は給付金などが受給されるだけではなく、社会保険(健康保険や厚生年金)の支払いが免除されます。
免除期間は育児休業の開始月~終了前月までが対象期間となり、対象期間内も被保険者としての資格は継続し、将来もらえる年金額などが減ることはありません。
ただしこの社会保険料の免除も自動で行われるわけではなく、事業主による年金事務所への申請が必要になります。
会社員で厚生年金を払っている方は、勤務先から「育児休業等取得者申出書」などの必要書類を受け取り、育児休暇中に勤務先の担当窓口へ提出する必要があります。
個人事業主などで厚生年金保険を払っている方は、「厚生年金保険養育期間標準報酬月額特例申出書」などを自ら用意し、日本年金機構へ提出してください。
必要書類一式は日本年金機構のホームページからもダウンロードでき、記載例や必要書類も記載されていますので、特に自分で手続きをする方はあらかじめ確認をしておきましょう。
ただしここで気を付けておきたいのが、社会保険料は免除になっても住民税の支払いはしなければいけないという点です。
と言うのも、住民税は前年度の所得に対してかかる税金なので、前年度に給料所得があれば支払いの義務が生じます。
そのため、請求が来て慌てることのないように、住民税の支払い分は出来れば育児休暇前に確保しておいてください。
では、ここまでの情報を整理しましょう。
育児休暇中は無給でも育児に専念できるように様々な給付金などがもらえますが、これらは全て申請の手続きをしなければもらうことができません。
中には児童手当の様に申請が遅れてしまった分はもらえない手当もあるので、出産前から早め早めの準備が重要になります。
いざという時に困ることにならないよう、是非この記事も参考にもらえるお金を有効活用して育児に専念していただければと思います。